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【特集】 世界の学びの窓から「<第2回>あなたは解ける?世界の中学生に問われる数学力編」(対象:中学生)

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特集「世界の学びの窓から」

この記事では「【特集】世界の学びの窓から」と題し、海外の子どもたちの学習事情について、5回にわたって連載していきます。第2回の今回は、アジアの教育大国・シンガポールの例から「中学生に問われる数学力」をテーマに、世界の教育現場から最新事情をお届けします。


記事の中で、実際に出題された数学の問題を紹介しています。ぜひ紙とペンを用意して、問題を解きながら読み進めてみて下さい。



計算だけじゃない?答えを出すために必要な力とは~シンガポールPSLE試験の例から~

アジア数学オリンピックに挑戦!~情報整理と推測がカギ~

まとめ




計算だけじゃない?答えを出すために必要な力とは~シンガポールPSLE試験の例から~

2019年3月、シンガポールで発表された「あるニュース」に国中が驚愕しました。それは2024年にシンガポールの英才教育システム「ストリーミング(Steaming)」制度が廃止されるというもの。


ストリーミング制は、PSLE(Primary School Leaving Examination)という試験の成績により子どもが通う学校や進学コースが決まる制度で、PSLEはシンガポールでローカル小学校を卒業する際に課される、いわば中学校入学試験のことです。これは、1980年代から約40年もの間、シンガポール国民の早期英才教育システムとして実施されてきました。


物理的資源の少ないシンガポールでは「人材教育こそ国の重要施策である」という考えのもと、このストリーミング制がアジア、そして世界のリーダーを輩出するための教育システムとして機能してきました。


その中でもPSLEは、その結果で入学できる中学校が決まるだけではなく、将来の大学進学ひいては就職後の給与にまで大きな影響を与えるため、シンガポール国民にとってはまさに親子で臨む一世一代のイベントです。


実際、シンガポール人の大学生に会うと必ず一度はPSLEで苦労した話、家庭教師をつけるために親が奔走した話などを笑い話として聞かせてくれます(ちなみに彼らはPSLEを経験して、大学進学率40%以下という狭き門を突破した優秀な学生たちです)。


ストリーミング制廃止後の教育システムについては、シンガポール最大の日刊新聞「ザ・ストレーツ・タイムズ(THE STRAITS TIMES)」によると、2024年以降、中学校 (Secondary)のコースは、生徒個人の得意に応じてすべての教科に及ぶ成績のレベル分けをする新システム(General Levelシステム)に移行することになり、現在のコースであるNormal(Technical)、Normal(Academic)、上位層向けExpressはそれぞれG1 / G2 / G3という枠組みで再設計される予定とされています。


この結果、シンガポールにおいては、中学校コースからイギリス・ケンブリッジ大学と共通の「国際基準の教育評価制度」が導入されることになります。


シンガポール政府はこれまでケンブリッジ大学と協働で、大学入試制度 (GCE)の枠組みを作り実行してきましたが、今回のGeneral Level再設計により、その低年齢化がはじまるというわけなのです。


そんな話を聞いていると「今回のストリーミング制廃止は喜ばれるニュースなのでは?」と思われるかもしれませんが、実際は逆で「シンガポール独自の人材育成システムが終わってしまうなんて信じられない」「子どもたちの今後の教育の効率や質が心配。ストリーミング制はあるべきだと思う」という声も多数聞こえてくるといいます。


ストリーミング制の要とも言えるPSLEですが、重要視されている理由の一つに「考える力」を問う良問が出題されている点があります。


試験の過去問を見てみると

  • 分数の四則演算
  • 単位、位の考え方
  • 文章題(つるかめ算、線分図等)
  • 割合(速さ等)
  • 平面図形、立体図形の演算


といった内容が多く見受けられます。これは日本でいう中学校受験の範囲と変わらないようにも見えますが、PSLEの特徴として、子どもたちの「常識」「仮定を通して論理的に考えること」「具体的にイメージを持って課題解決ができるか」といったスキルを問う出題が含まれています。


例えば「机上の詰め込み学習への警告」として話題になったものに、下記の問題があります(2015年の出題から)。



How heavy are eight $1 Singapore coins? 6g, 60g, 600g or 6kg?


「8個の1ドルコインの重さは6g、60g、600g、6kgのどれ?」



「1つあたりのコインの重さも分からなければ、材質も分からないので、回答できないのでは?」「IQの試験みたいでおかしい!」という意見もあれば、「子どもたちの思考が"現実離れ"していないかを問う良問だ」という意見もあり、賛否両論となりました。


皆さんは、どのように回答しますか?


500mlのペットボトルの重さが約500gというイメージがあれば、コイン8枚の重さの回答として「60g」と推測することができると思います。


普段から自分で買い物をする機会があったり、身の回りのことに関心を持って日ごろから親子で話をしている生徒は、答えを出しやすかったのではないでしょうか。



他にも、2017年に出題された文章題では、受験者の思考力が問われているとして注目されました。


Jess needs 200 pieces of ribbons, each of length 110 cm, to decorate a room for a party. Ribbon is sold in rolls of 25 m each. What is the least number of rolls of ribbon that Jess needs to buy?


「ジェスはパーティの飾りつけのために、1本あたり110cmのリボンを200本用意しなければいけません。リボンは1ロールあたり25mで売られています。ジェスは少なくとも何ロールのリボンを買う必要があるでしょうか?」


単位換算を含む演算ですね。早速トライしてみてください!



――答えは出ましたか?


リボン1本あたりの長さは110㎝、つまり1.1mですね。


これが全部で200本必要なので
― 1.1×200=220 (m)
が必要な長さとなります。


1ロールが25mですから、何ロール買えばよいかというと
― 220÷25=8あまり20 (8ロールとあと20㎝足りない!?)


端数の分は、余分に1ロール必要ですので
― 8+1=9 (ロール)


答えは、9ロール!



......と答えた方はいませんか?


実は、正解は「10ロール」。
なぜ?と思った方も多いのではないでしょうか。


上の計算式自体は間違ってはいませんが、試しにリボンを切り出すところをイメージしながらやってみましょう。


1ロール25m(2,500cm) からリボンを110㎝ずつ切っていくと、
― 2500÷110=22あまり80


ここで、「あまり」の意味を考えてみましょう。これは1ロールから「22本分のリボンを作ることが出来て、80㎝余ってしまう」ということ。この80㎝は残念ながら、110㎝に満たないので【使えない】リボンです。


では、全部で200本のリボンを作るためには何ロール必要なのでしょうか。
― 200÷22=9あまり2 
端数の分、余分に1ロール必要ですので
― 9+1=10 (ロール)


これが正解でした。


最初の計算だと、1ロールあたりに余りとして残ってしまう【使えない】リボンも合計して計算してしまっている点がトリッキーです。普段から「あまり」の意味を考えたり、計算式の最後に単位を書く習慣があれば、途中で間違いに気づけたかもしれません。


「80㎝の半端なリボンも結んでつなぎ合わせれば、110㎝を作り出せるじゃないか」という考え方もありますが、つなぎ目・結び目にどれくらいリボンの長さが必要か考えてみると......ますます答えが出せなくなってしまいますね。


現実をイメージしながら順序立てて考えて、現実的な回答を出すなら、ここは「10ロール」と答えるのが自然かもしれません。


シンガポールのPSLEからは、中学生レベルの数学には単なる計算力だけではなく「常識」や「具体的にイメージを持って問題解決をする力」が求められていることに気づかされます。





アジア数学オリンピックに挑戦!~情報整理と推測がカギ~

PSLEの他にも、シンガポールのSASMO(=Singapore & Asian School Math Olympiad)が主催する数学オリンピックで出題されたある問題が話題となりました。


この問題は中学2~3年生向けと言われています。早速見ていきましょう。(「※」の文章は本記事での補足です)。


Albert and Bernard just became friends with Cheryl, and they want to know when her birthday is. Cheryl gives them a list of 10 possible dates.


May 15 May 16 May 19
June17 June18
July14 July16
August 14 August 15 August 17


Cheryl then tells Albert and Bernard separately the month and the day of her birthday respectively.


Albert: I don't know when Cheryl's birthday is, but I know that Bernard does not know it too.
Bernard: At first, I don't know when Cheryl's birthday is, but I know now.
Albert: Then I also know when Cheryl's birthday is.



「アルバートとバーナードは最近シェリルと友達になったばかり。2人はシェリルの誕生日を知りたいと思っています。シェリルは10個の日付を誕生日の候補として教えてくれました。


5月15日 5月16日 5月19日
6月17日 6月18日
7月14日 7月16日
8月14日 8月15日 8月17日


それからシェリルは、アルバートとバーナードにそれぞれ誕生月だけ、誕生日の日にちだけ、を分けて教えました(※以下はその後、アルバートとバーナードがした会話です)。


アルバート:僕はシェリルの誕生日が分からないけど、バーナードも分からないってことだけは知ってるよ。
バーナード:はじめは分からなかったけど、でも今、僕は分かったぞ。
アルバート:それなら、僕もいつがシェリルの誕生日なのか分かっちゃったよ。


(※さて、シェリルの誕生日はいつでしょうか?)」


一見すると、これだけの情報で本当に誕生日が分かるのだろうかと思ってしまうような内容ですが、よく考えてみてください。


この問題を解くには、アルバートとバーナードの会話をかみ砕き、理解することが必要です。


10個の候補に加えて、月と日にちの情報どちらか一方だけを持っていた2人。最初は2人とも答えが分かりませんでしたが、「アルバートの最初の一言」からバーナードは答えが分かり、最後にアルバートも答えにたどり着きました。


また、バーナードは少ないヒントで正解が分かったところを見ると、おそらく誕生月ではなく限定的な「日にち」を知っていたと推測できます。


そして、問題を解くポイントは2人の視点を「整理」することです。


表

※画像をクリック(タッチ)すると拡大画像が表示されます。


整理すると、「18日」「19日」は一度ずつしか出てこないことが分かります。


(誕生月だけ知っている)アルバートは、最初に「(日にちだけ知っている)バーナードも分からないってことだけは知っている」と発言しています。つまり「○日」という情報だけ持っていても特定できない、とアルバートは言っているわけです。


とすると、誕生日の日にち候補の中で1回しか登場しない「18日」と「19日」がまず候補から外れます。


なぜなら、もしアルバートが知っている誕生月の情報が5月か6月であれば、日にちを知っているバーナードには誕生日を特定できる可能性があることになりますから、「バーナードも分からないってことだけは知っている」と断言することはできません。


つまり、アルバートが知っている誕生月の情報は、18日、19日が含まれていない「7月」もしくは「8月」だろうと確信できるわけです。


ここまでて、誕生月が「7月」「8月」であるというところまで絞り込めました。


次に、アルバートの発言を聞いただけで、バーナードはすぐに正解をあてました。


日にちを知っているバーナードがすぐに答えが分かったということは、7月、8月に重複している「14日」は除外されます。


残る候補は「7月16日、8月15日、8月17日」です。


さて、ここで誕生月の情報しか持っていないアルバートも答えが分かったということは......?



そうです、正解は「7月16日」です。




まとめ

いかがでしたか?


このように大人でもどう解いたらいいか悩んでしまうような問題が「中学生向け」だということに、驚かれた方も多いのではないでしょうか。


今回ご紹介した問題では、情報を順序立てて整理し、問題を解決する力、いわゆる「論理的思考(ロジカルシンキング)」が問われています。「情報を整理すること」「仮定をもとにして推測すること」がいかに重要かを教えてくれる興味深い例なのではないでしょうか。


小学校までの学習で基礎的な知識を身に付けてきた子どもたちが、中学校のステージで求められるのは、既知の情報を組み合わせ、それらをもとに推測することで問題を解決していくスキルなのです。


是非、ご家庭での学習指導でも「シンガポール流 数学へのアプローチ」をお役立ていただけたらと思います。



2019/7/29

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